屁の話
題名を見るなり、「まっ、下品」と思われた方は、読むのをやめてください。ただしっ!
あなたは、生まれた時から今日まで、そしてこれからも屁をひったことのない人とみなし、もし、万が一にも、あなたの屁を聞いた(音、匂い問わず)人あらば、下記「我が家における屁の罪ランク」に応じて、厳重に、その屁あんばいを検討の後、ことに寄っては処罰も受けるであろう。
そりゃあ、なんのことかいなと思ったら、最後まで読むことをお勧めします。
屁は「する」ものでなく「ひる」ものだから、伝法な語感と感じても我慢してほしい。
正しい言葉使いにこだわりたい。
ここまで読んで、「いやいや、わかってるけど言い方がね、表現が、別の言葉もあるだろうに」と思うあなた、
あれあれあの言葉、広く長く神妙に使われてきている「おなら」いうお言葉を指しているのならば、ご存じであろうか? あの言葉の語源を。
「おなら」という言葉は、日本国において、最も「やんごとなき」方々の住まうところでのみ使われていたお言葉だそうだ。
私が言うのではない。テレビで語源に造詣深い落語評論家の人が話していたのだから確かである。
我々ぐらいのやんごとなさの者が使ったら「何様!」であったお言葉が、
いつの間にか、重き尊き狭きい門の隙をくぐり抜けて逃げてきて広まちゃったお言葉なのである。(他にも、このように本来の発祥地から逃げて来て、広まちゃった言葉はたくさんあるらしい)
ところで、この「やんごとない」という言葉の意味を知っている人は多いと思うが、私は知らないので、ここに大辞泉で調べたことを記しておく。
【やんごとない】
[形][文]やんごとな・し[ク]《「止む事無し」が一語化したもの》
1 家柄や身分 が非常に高い。高貴である。
2 そのまま捨てておけない。なおざりにできない。 3 のっぴきならない…
私をはじめとして、3にあてはまらないでもない部分を持っている人も少なくはないが、敢えて無視してほしい。
よって、ここで、私は、やんごとある者の誇りを持って、「屁」を本来の「屁」という名前で声高らかに呼んでやりたい。
話はそれるが、ということはですよ…。
信じられない人も多くございましょうが、やんごとなき方々も、御「屁」をば、おひりなさるということになりましねいか。
そこのあなた、驚いたり、私を叱ったりしてはいけない。失望した方には謝る。
しかし現実とは、かくごとく思いもよらぬ時に、厳しく、また、もの悲しい形で露となるものなのだ。
やんごとなき方々もおひりなされるという屁を、やんごとある我々ごときは、時所かまわず呼吸するがごとくにひっているのであるから、この話から目を背けてはならない。
屁の話に耳をふさぐ者は、匂いに泣くのである。
もとい「屁」という一文字一言の、この潔い名前。
個性豊かな自己主張を秘め、存在感は無限大ながら実体は見えないという存在。
仏典の中で語られる「無」と同じくらいの重い響きがあっても良いのに、
これほどに軽んじられ、時に疎まれ、笑われてきた言葉があろうか。
文字界においても実社会においても、生み主からさえ無視されることもある天下一の
日陰者。「屁」に、私は、ここで光をあててあげたいと思う次第である。
さて、「屁」という言葉。これには、実はいろいろな発音の仕方がある。
古くから東京に住む人たちは「へぇ」と、たいらにわずかに伸ばす。
東北地方では「へ」と簡潔。
古くから東北地方に住む人々の中には「ふぇ」と発音する人もある。
その後に「する」「たれる」「まげる」などの動詞が続く場合は、更に「ふぇえ」と伸ばす。
「ふぇえまげだ」(屁をした)という感じである。
どんな状況にあっても、いかにさりげなく、この言葉を言ってのけられるかが、真の東北人としての品性が問われるところである。
関西や南国の発音は興味深いところであるが、寡聞にして知らない。
(大見得きったものの筆者、友達少なく情報不足)
さて、発音などはさておき好意屁そのものについて、局地的に語りたいと思う。
我が家で設は、屁のランク、それに伴う罪と罰が設けられている。
ランクとは、屁をひった人のランクではなく、飽くまでも屁そのもののランクである。
人に罪はない。にんげんだもの。
しかし、処罰が発生した場合は、屁は空気のようなものなので、ひった人に負ってもらうことにはなる。
その概要は以下の通りである。( )内は主な待遇・処罰である。
なお、【失態】とは、その屁によって非常に恥ずかしい思いをした場合、ランク外して設けた特別措置である。
【好意】 音無 匂い無 (これは、幻の屁である。私は未だにこういう屁を匂いも含め
聞いたことがない)
【過失】 音有 匂いほのか 香り時間短(音に愛嬌があった場合は【失態】とみなす)
音無 匂いほのか 香り時間短
【悪意】 音有 匂いきつめ 香り時間短(音に愛嬌があった場合は【過失】に格下)
音無 匂いほのか 香り時間長(「屁ったれ」とそしられる)
【小悪】 音有 匂いきつめ 香り時間長(音に愛嬌があった場合は【悪意】に格下)
【中悪】 音無 匂いきつめ 香り時間短(本人がしらばっくれた場合【極悪】に昇級)
【極悪】 音有 匂いきつめ 香り時間長(退場勧告の場合あり)
【非道】 音無 匂いきつめ 香り時間長(即刻退場)
※ 非道行為に加、しらばっくれたり、開き直った場合、名前の頭に
「屁」を付与。度合に応じて姓そのものを「屁」に改姓させられる。
上記概要に加え、音の大小に関しても細かい規定はあるが、長くなるので割愛する。
十分長くなった。
概要を一読してわかるように、音の無い場合が、罪は重いとされている。
これは、屁の持ち主だった人がそ知らぬふりをする場合が多いことと、
屁が、長い熟成状態にあった場合が多く、同じ「きつめ」でも音のある場合のきつめとは、大きな差があり、ひった本人すら自分の尻を疑うような異様な匂いを発する場合があるからである。
音に関してもそのような場合があるが、ひった本人が笑いを生じさせる人気者か、気まずさをもたらす気の毒な人になる可能性がある。
そのような理由から、音の無いほうが罪は重くなる。
「匂い」というのは多分に主観的な面を持っているが、誰もが思わず「くさっ」と叫んで
思わず手を払ったり、ひった人の腹具合を案ずる場合を「きつめ」と規定している。
ひった本人が自ら涙ぐんでいたり、その匂いで誰か倒れこんだ場合は、
【論外】とされ、即刻退場、名字を「屁」に改姓させられる。
ここまでで、我が家における「屁」の位置づけは、だいたいご了解いただけただろうか。
読んでいて、バカらしい話だと思った人は、理由無くうんこが固くなり、ミニ切れ痔になるであろう。
それほどにも、屁とは重要な存在なのである。
なにしろ、我が家には名字のみならず、親からもらった名前すらも「屁」に変えられ、
「屁皇子」(へおうじ)の称号を持つ男が時折り訪ねてくるのである。
次回は、この「屁皇子」が作る極悪非道な阿鼻叫喚の世界を交え、さらなる屁の世界を語りたいと思う。
つづく


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